学校で適応困難な子どもには、@多動性、落ち着きのなさ、A授業に参加しない、B友だちとのトラブル、C学習障害、D攻撃行動、Eパニック、F非行があげられる。このような不適応障害が生じる障害としては、@注意欠陥注意障害、A高機能自閉症(アスペルガー障害)、B境界知能、軽度知的障害、C反抗挑戦障害、D行為障害、E学習障害がある。社会性に関する精神発達障害は,自閉症を中心に研究が進められてきた。しかし,近年,症状の程度や合併障害などからさまざまな近似したタイプの存在が知られるようになり,それらは広汎性発達障害という疾患群として扱われるようになった。その中にアスペルガー障害を含む高機能自閉症がある。
高機能自閉症とは、自閉症の中で知的障害を合併していない例(IQ 70以上,または正常知能IQ 85以上)であるものをさす。自閉症の診断基準,すなわち@社会的相互作用の質的障害,(多言語性・非言語性コミュニケーションや創造的活動の質的障害,B行動や興味の明らかな制約,C発症年齢が3歳末満であること,の4つによって行われ,かつ知的障害をもたないものをいう。頻度は1万人あたり10から80人で、男性が女性の2から10倍である。
病因としては、遺伝性と環境要因が挙げられている。一卵性双生児では、約90%の一致率を示しているが、10%程度に一致していないものもあり、遺伝要因だけとは考え難く、そこに何らかの環境要因(薬物、環境物質、感染など)が絡んでいるものと考えられる。
症状は社会性の障害として、視線が合い難い、集団遊びが困難、一人遊び、ルールが解らない、自分勝手などがあげられる。コミュニケーション障害としては、興味以外の会話が困難、語彙・語用障害、話し方が奇妙、ごっこ遊びが困難などがある。異常行動としては、こだわり、パニック、狭い興味の範囲(カタログ的知識)、ファンタジーへの没頭(独り言)、タイムスリップ(フラッシュバック)などがある。
現在,診断基準として用いられているのは,アメリカ精神医学会による「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第4版(DSM−W)」(表1)である。
表1 DSM−Wのアスペルガー障害の診断基準
A.以下のうち少なくとも2つにより示される対人的相互作用の質的な障害。
l)目と目で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢,身振りなど、対人的相互反応を調整する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害。
2)発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。
3)楽しみ,興味,成し遂げたものを他人と共有すること(たとえば,他の人達に興味あるものを見せる,持って来る,指さす)を自発的に求めることの欠如。
4)対人的または情緒的相互性の欠如
B.行動,異味および活動の,限定され反復的で常同的な様式で以下の少なくともlつによって明らかになる。
l)その強度または対象において異常なほど,常同的で限された型のlつまたはそれ以上の興味だけに熱中すること。
2)特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。
3)常同的で反復的な衒奇的運動(たとえば,手や指をばたばたさせたりねじ曲げる,または複雑な全身の動き)。
4)物体の一部に接続的に熱中する。
C.その障害は社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている。
D.臨床的に著しい言語の遅れがない(たとえば,2歳までに単語を用い・3歳までに意志伝達的な句を用いる)。
E.認知の発達,年齢に相応した自己管理能力(対人関係以外の)適応行動および小児期における環境への好奇心などについて臨床的に明らかな遅れがない。
F.他の特定の広汎性発達障害または精神分裂病の基準を満たさない。
DSM−Wの基準に当てはまる小児期症状を具体的にあげる。
乳児期には普通の赤ちゃんのような母親へのかかわりがそれほど積極的ではなく,「大人しく楽だった」,「誰があやしても同じ」などと回想される。歩き出すと,親から平気で離れて迷子になりやすい。子どもに関心が出るのは3歳以降が多い。始語以後は,ビデオやCMのフレーズをいろいろ言えるわりに,質問を無視したり関係のない場面でしゃべり出すなど,会話に不自然さがある。保育園では,日課に沿った一斉行動,ルールのある遊びなどが不得手である。就学後,他者の感情がわからずクラスで浮きやすく,表向きでないルール,暗然の了解が苦手で,いじめのターゲットにしばしばなる。高学年になるとこれらの偏奇を個性として友人からそこそこ受け入れられ適応していく子どもがみられるが,その一方で他罰的になり周囲とのトラブルやかんしゃくパニックをくり返す子どもも多い。
対人関係の齟齬を生じやすいもう一つの原因として,その興味のもち方が独特であることがあげられる。同年代の子どもの好むおもちゃよりもマーク,アルファベット,数字などに興味をもつ子が多く,物語の本よりも車や電車の図鑑,時刻表が好きだったりする。「昆虫博士」,「カレンダー少年」,「野球博士」と周囲によばれるほど自己の興味に没頭する。趣味として安心や自信につながってくる場合はよいが,相手かまわず知識を披露し中断が困難なこともある。さらに,行動や生活に自分なりの決まりがあって他人を巻き込み,「マーケットへ行く道順はいつも同じでないといや」「数字の2がつかないといや」,「同じロゴの服しか着ない」などのこだわりや,「何回も同じ質問をくり返す」,「エレベーターのボタンを必ず全部押す」などのくり返しに家族が辟易することも多い。
知的な発達は良好であるが、言語発達に関しては1歳6か月児健診でチェックを受けたが2歳で話しだした,片言出てから増えずしばらくして急によくしゃべりだしたなどのケースがみられる。その後の言語発達は良好な児童が多いが,同級生にも敬語を使ったり,独特の言い回しを乱用したり(○○ちゃん語などといわれる)抑揚が奇異であるといった特徴が診察場面でしばしば気づかれる。
決して引っ込み思案ではなく、なれなれしく話しかけてくる子が多くみられるため、自閉傾向にあるとは思われにくいことが多いが、その話の内容が唐突であったり、会話が成り立たないことが多い。
その他の症状として、「不器用さ」があげられる。レベルはさまざまであるが,折り紙が苦手,はさみがうまく使えない,ボール遊びが下手,などの訴えは高頻度に聞かれる。また,広汎性発達障害全体でみられる症状である感覚の過敏性と鈍麻性も,しばしば認められる。飛行機が通るたびに耳をふさぐなど音に対する聴覚過敏や,のりが手に着くと嫌がってわめくなどの触覚過敏が代表であるが,これらの症状の存在は集団参加を困難にしている。
就学前には,障害が理解されある程度の配慮があれば,大きなこじれはおきにくい。しかし,知的障害がないとの判断から多くは普通学級にすすむことになるので,入学後は要求される社会性のレベルが急に高くなりアスペルガー障害の児童は混乱しやすい。さらに,先述のような悪気のない勝手な振る舞いが疎まれ,教師から叱られたり仲間からいじめられたりの体験を重ねることも少なくない。この体験がやがて深刻な迫害体験として積み重なり,小学校高学年では二次的な抑うつ状態,幻覚様のフラッシュバック(タイムスリップ),興奮,家庭内暴力などがひき起こされることもある。不眠や腹痛などの身体症状も出現しやすい。チックや,儀式的な強迫行為もよくみられる。なかでも最も多いのは不登校である。他者との何らかの違いを自覚する能力はあっても,どこが問題でどう努力したらよいかがわからず社会参加を回避せざるを得ないのである。
合併症には気分障害、トウレット障害、学習障害、てんかん、行為障害等があり、鑑別すべき疾患としては注意欠陥多動性障害、人格障害、分裂病、学習障害等があるが注意欠陥多動性障害との鑑別が重要である。
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